資産の取り崩しにも注意が必要
退職後は生活費を捻出するために、運用資産を切り崩します。配当があればそれも金額に含めるところですが、無分配型の投資信託をメインに運用を行っているので、配当以外に200万円分を換金しなければなりません。
しかし額面で200万円分の投資信託を売却し換金しても、200万円分まるまる受け取れるわけではありません。利益に対しては20.315%の所得税と住民税が課税されるからです。ただし、課税されるのは売却した200万円全てに20.315%という訳ではなく、利益の部分にのみ課税されます。目論見通り行っていればおよそ4割程度が利益となっているはずですので、利益が4割であれば、200万円のうち80万円に課税されるということです。
特定口座で源泉徴収ありにしておけば、利益分の80万円に対して20.315%、80万円*0.20315で16.2万円ほど課税されて受け取り時に天引きされるので、このままにしておくのであれば確定申告は原則不要で、受け取り額としては183.8万円ほどです。確定申告が面倒であればこのままでも良いのですが、所得控除枠ぶんの金額は確定申告をすれば引かれていた20.315%を還付により取り戻す事ができます。還付されるのは所得控除枠分のみなので、それを超えた部分は返ってこないことに注意が必要です。
そして、さらに注意点があります。控除や減免、免除の対象のボーダーになる収入、所得金額は制度や法律の違いから様々で、一律ではありません。また、確定申告を行うと、申告した金額は国民健康保険料や介護保険料の計算に入ってしまうというデメリットがあります。申告不要で終わらせた場合は国民健康保険料や介護保険料の計算には入りません。
そこで、無駄なく控除できる金額分のみ確定申告を行い、余分な税金などがかからないようにしようと思います。確定申告をするかしないかは特定口座ごとに選択できるので、投資の段階で特定口座を最低2つ以上に分けておきます。こうすることで最低限の金額を確定申告し、無駄に国民健康保険料や介護保険料が上がることを防ぎます。
ちなみに2023年分までは所得税のみ確定申告を行い、住民税を申告不要とすることができます(この場合還付されるのは15.315%)。しかし、2024年以降はこの方法が使えなくなってしまうのでこのように考えています。課税方式の選択が残ればこんなめんどくさいことをしないでお得にできたんですが、ちょっとチート的な手法だったので潰されるのは仕方が無いのかもしれません。
税金および国民健康保険料、国民年金について
退職前から減らせるに越したことはありませんが、退職後はさらになるべく税金や社会保険料は減らしていきたいところです。税金等の支出で主に考えられるものは、所得税、住民税、国民年金保険料、国民健康保険料、iDeCoの5つです(以前にも書きましたが、iDeCoは任意に資産を還流しているだけなので支出と考えなくても良いのですが、控除に関わってくるので、計算する必要があるため触れています)。不動産(固定資産税)や動産(自動車税など)にかかる税金は確定申告には関わらないので、ここでは除きあとで考えます。
まず、国民健康保険及び介護保険の保険料と、国民年金の免除申請が可能かどうかは所得によって変わって来ることに留意が必要です。所得税と住民税も所得に応じてかかるので、株や投信の利益を確定すると発生してきます。控除の枠をめいいっぱい使うにはどうすればいいか、ここで考えていきたいと思います。
国民健康保険料(税)
ではまずFIRE生活で一番影響が大きそうな健康保険について。サラリーマン時代には会社と折半で給与天引きなため、引かれている金額を詳しく気にしている人は多くないのではないでしょうか。しかし、脱サラしたらまずここはしっかり気にしたいポイントです。ここをうっかりすると下手に所得控除のために確定申告を行っても、余計に支出がふえてしまったりするのできっちり計算していきましょう。
保険料と保険税、違いはあるの?
ちなみに国民健康保険料と国民健康保険税はほぼ同じものです。自治体によって違うので、基本的に選択するといったことはできません。どうしても言うのであれば、事前に調べてから引っ越しをして、希望の自治体に行けば変更することはできます。そこまでする意味は全く感じませんが。
違いとしては根拠法が異なるので、滞納したときや還付を行うときの時効までの期間に違いがあります。普通に納付していたら差はないので気にする必要はありません。こちらの記事では国民健康保険料と書きますが、国民健康保険税で徴収される自治体にお住まいの方は国民健康保険税に置き換えてお考えください。
収入に気をつけよう
余談はさておき、国民健康保険料が減免されるかどうかを算定する金額は、基本的に所得ではなく収入な点であることに注意です。最大の減免である7割減免に許されている所得は、住民税の基礎控除と同じ43万円がベースで+給与収入から55万円控除+公的年金から60万円or125万円控除(65歳未満60万円・65歳以上110万円+15万円で125万円)です。控除の額が基本的に住民税の控除と同じ金額なので、住民税と同じかな?と思いがちなのですが、実は社会保険料控除や小規模企業共済等掛金控除、扶養控除などの給与年金の所得控除以外は関係ありません。
所得税の確定申告の経験がある方は勘違いしてしまいそうなのですが、よくよく調べてみると社会保険料控除や小規模企業共済等掛金控除などは無関係であるということに後で気付きました…。FP2級の問題にでてきたかな…これ。出題されてもよさそうなのに記憶になかったのですっかり計算から抜けていました。
また、国民年金保険料の減免などの判定は世帯単位です。同居の家族がいるとまた変わってくるので、同じ世帯に収入の多い方がいる場合は世帯分割などを考える必要も出てきます。そのあたりも複雑なので、今回は一人世帯という前提でお読みください。国民健康保険料は慣れないとほんとややこしいです…。
国民健康保険や介護保険の減免は非常にややこしく、市役所等のHPなどを見ても分かりづらいので、上記の同居人がいる場合などの例も含めて別にまとめたいと思います。
一方、所得税と住民税の計算には社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除など一般的な所得控除が使えます。
所得税と住民税は基礎控除が48万と43万で違いますが、控除についてはほぼ同じです。
収入に応じてどれだけ保険料が上がるか計算してみよう
国民健康保険料には所得割と均等割の2種類があり、所得が43万円以下(給与所得は55万円控除、公的年金は65歳未満50万円、65歳以上で125万円控除)であれば、所得割は0、均等割は7割軽減で、今私が居住している市ですと2021年度の場合、年額14,500円(40歳以上なので介護支援分を含みます。以下同じ)です。投資信託の利益は譲渡所得なので、給与や年金の控除は使えません。
5割減額ぎりぎりの金額は43万+28.5万円で71.5万円。この金額だと所得割が33,772円、均等割が5割減額で24,400円、端数切捨ての関係で合計は58,000円です。所得が28.5万増えると国民健康保険料が43,500円高くなる計算で増加分の28.5万円に対して15.2%掛かってくると言えます。
次の段階が43万円+52万円の95万円で2割軽減ですが、これだと100,500円になり86,000円増で増加分の52万円に対してかかる割合は16.5%です。
軽減なしの割合も計算してみます。ぎりぎり2割軽減がなくなる43万円+52.1万円の95.1万円とすると保険料は110,400円で95,900円の増。増加分の52.1万円にかかる割合は18.4%です。
125万円くらいだとどうでしょう。収入が125万円の場合145,800円です。131,300円の増で増加分の82万円に対して16.0%です。
投信はどこまで利確したら?
前に書いた通り、投信等の利益分については特定口座の源泉徴収ありで、申告不要制度を利用すると国民健康保険料の計算には含められなくなります。申告不要にした場合、税率は一律で20.135%(所得税15.315%、住民税5%)です。
所得税と住民税が発生しない控除の範囲内であればその分まで利確し、確定申告をした方がお得になるように感じられます。しかし、国民健康保険料が上がってしまいます。
どれくらいお得になるか計算すると、せっかく所得税住民税がかからずとも国民健康保険料が上がる部分が結構大きく、5割減額の収入71.5万円以内に収めるぎりぎりで5%弱、普通に社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除分の住民税、所得税がかからないギリギリくらいまで申告すると1.5%ほどしかお得になりません。単純にここだけ見るとあまりメリットがなさそうにみえますが、果たしてどうでしょうか。
いっそ、所得がなければ国民年金は払わず免除申請することもできるので、所得税・住民税のかからないギリギリまで利確するパターンと、利確しないで国民年金は免除申請するパターンの両方を考えてみます。
では、次の記事でどの方法が一番お得になるか検証してみたいと思います。
住民税の控除枠ギリギリまで使うパターン
まず、312万円分の投信を売却し、4割が利益として125万円分を申告した場合をシミュレーションしてみます。
iDeCoの拠出金額を調整し、4%程度の利回り込みで運用結果が870万以下になるように拠出できるように再計算します。iDeCoの加入年数が21年になる予定なので退職後15年以上経過してから、つまり65歳以降に受け取れば、サラリーマン時代にもらった退職金に使った退職所得控除とは別に退職所得控除が870万円分利用できるはずなので、きっちり課税されない範囲内に収まるからです。万一運用がうまく行き過ぎて予定以上に増えてしまった場合は嬉しい悲鳴ということで、そこへの課税は甘んじて受けます。その際は870万円の退職所得控除後、超えた部分が330万円以内であれば一時金ですべて受け取り、万一それを超えるようであれば残額は年金形式で受け取ります。
控除を無駄なく使いたいので、年間の所得控除額を計算します。国民年金 196,405 + iDeCo 480,000 + 国民健康保険料 145,800円 + 基礎控除(住民税)43万円 = 1,252,205円
退職後は60歳まで、投資信託の含み益を計算し、利益が所得控除を超えない金額を利確します。年利回り6%程度で運用がうまくできていれば、4割程度が利益になると計算できるので、仮に4割だった場合、毎年275万程度を売却して確定申告を行います。5割だったら220万、3割だったら366万です。売却益が所得控除内に収まるので所得税がかからず利確できます。万一もっと利益が出ていて含み益の割合が高ければ利確する額を下げます。
おそらくうまく行っていて含み益は4割ほどだと思うので、仮に売却額の4割が利益だとして試算してみます。
312万*0.4=125万
312万-48万(iDeCo)= 264万
iDeCoの分は還流しているだけなので良いのですが、当初予定の年間支出200万を超過している64万円分は再投資します。
所得が増えたせいで、国民健康保険料が当初の予定より8,000円程度オーバーしていますが、それを入れてもギリギリ200万程度に収まるので良しとします。
国民健康保険料の145,800円が結構大きい感じがします。所得0にして均等割7割減額まで持っていけば14,500円です。差額は131,300円。10年で約130万です。その代わりに年間125万円分の利益を課税されずに受け取っていると考えると、基礎控除の分はこの方法でなくても引けるので除外するとして、(125万-43万)*10*20.153%約166万です。36万ほどお得になる計算です。iDeCoに入れた分は退職所得控除分まで非課税で受け取ることができるようになりますし、手間に見合うかを考えても悪くはなさそうです。
また、リタイア後に収入があったとしてもこの方法でしたら利確する金額を変えればいいだけなので調整が容易です。
年金は免除申請し、基礎控除しか使わないパターン
次に、年金は免除申請、それに伴いiDeCoは拠出できなくなるので、基礎控除分のみ利確するパターン。
別記事で計算している「60歳~65歳未満までの間の生活費などのはなし」と同じでした。利益が4割なら107万円分を申告、それ以外を申告不要で売却で198万円ほど換金です。
こちらのパターンだと毎月の生活費も圧縮できます。国民年金の分と国民健康保険料が7割減額になるので、2万円ほど月の生活費が落とせます。年間170万円ほどで生活可能になるので、25倍ルールだと4,250万円でFIできる計算になります。
変わってくるのは先にシミュレーションしていた公的年金の額とiDeCoの受け取り方法です。約10年が免除期間になるので、そこの部分の基礎年金額が減ります。
仮に50歳からの10年間を全額免除申請したとすると、基礎年金が97,800円ほど減ります(端数のズレはご容赦ください)。781,700円から引くと683,900円になります。厚生年金が94.2万円とすると、合計で162.5万円ほど。国民健康保険料が収入153万円以下の場合は均等割7割減額の所得割0、で11,500円ですが、162.5万円の場合は20,700円です。
所得控除につかえるものも国民健康保険料くらいしかありませんし、153万を超えてくると住民税、158万から所得税もかかってきます。
65歳からは介護保険が一号被保険者になるので別計算です。介護保険もまたややこしく、市民税が課税されるかどうかが算定の分かれ目になりそうです。収入が年金のみであった場合、年金収入が155万円以下であれば市民税非課税になるので第3段階に該当し(世帯全員が市民税非課税で本人の前年の課税年金収入額と年金以外の合計所得金額の合計が120万円を超える方)年額43,400円(同一世帯に他に市民税課税者が居ない場合)。それを超えると第6段階(本人が市民税課税で、前年の合計所得金額が125万円未満の方)で収入が245万円未満であれば介護保険が年額79,600円です。245万円以上320万円未満は第7段階で(本人が市民税課税で、前年の合計所得金額が125万円以上200万円未満の方)94,100円になります。
言い回しがすごく難しいのですが、ここで言う課税年金収入額とは国民年金や厚生年金、共済年金などの普通の年金の収入のことを指しています。非課税年金は障害年金や遺族年金があります。収入ですので公的年金控除は考えなくていいということですね。
そして、市民税課税者の方は合計所得金額と書かれてるのでややこしいのですが、所得税の際に計算する控除額は考えないようです。ここで引くことができるのは公的年金控除+10万円なので65歳以上だと120万円のみとのことです。基礎控除やその他の控除は計算に入れないようです。
想定の年金額170万円だった場合と、年金を意図的に減らした場合の年額153万円を比較してみましょう。
170万円だった場合、国民健康保険料は35,800円。介護保険が79,600円。これらは控除になるので課税所得は54,600円で、所得税2,700円、住民税5,400円。全部足すと123,500円。170万から引くと1,576,500円。
153万円だった場合、国民健康保険料が11,500円、介護保険料が43,400円、合計54,900円。153万-54,900円で1,475,100円。
収入が17万円増えて、税金と社会保険料が6.9万円増えます。所得で10万円増ですね。月8,330円増と考えると…どうでしょう。やっぱり社会保険料が重い気がします。とはいえ、計算しておいて何ですが、所得をギリギリまで減らすというのは調整がなかなか難しいのであまりここをこだわる意味はないのかもしれません。あくまで参考程度ということで。
厚生年金は退職時期で額が結構変わってきそうなので、実際にFIREが見えてきたら詳細に計算したほうが良さそうです。
国民、厚生年金については終身なので、長生きするかもしれないことを考えると、敢えて少なくして国保や介護保険や税金を少なくする…というのもあまりいい方法ではない気がしてきました。社会保険料が高くなったり、所得税・住民税が課税されるとなんだか損な気はしますが、ずっと一定額を安定して貰えるというのは安心感は大きいです。少ない分資産を取り崩す量は増えてしまいますし。
では結論は
両方試算してみた結果、やはり国民健康保険料や介護保険料が上がったとしても年金は免除申請ではなく支払い、iDeCoも継続したほうがお得になりそうという結論になったので、今のところは前者の方法の予定です。また、今の仕事を退職後もこのブログなどの副業(退職後は本業になりますが)で収益があった場合は国民年金の免除申請も難しくなりますので、やはり前者の方法のほうが良さそうです。
そしてこの計算、市役所に問い合わせするなどして自分なりにかなりがんばって調べたのですが、ひょっとしたらミスとかあるかもしれません。お詳しい方、気づかれたらぜひ教えて下さい。
また、国民健康保険料や国民年金の金額は概ね2021年度のものです。国民健康保険料は市区町村によっても異なりますし、今後も変わると思われます。そのため、細かい差は気にする必要はあまりないと思いますので、多少の誤差はご容赦ください。計算などでそもそもの考え方がおかしい、間違っているなどのツッコミがありましたらぜひお寄せください。
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